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高松地方裁判所 平成2年(わ)380号 判決 1991年5月28日

本店所在地

高松市香西北町五八番地の一

四国繊維販売株式会社

(右代表者代表取締役 保科善孝)

本籍

香川県善通寺市稲木町四〇六番地

住居

高松市香西北町一〇八番地一四

会社役員

保科善孝

昭和一三年六月一五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官田村範博出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人四国繊維販売株式会社を罰金二二〇〇万円に、被告人保科善孝を懲役一年に、それぞれ処する。

被告人保科善孝に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人四国繊維販売株式会社(以下「被告会社」という。)は、高松市香西北町五八番地の一に本店を置いて繊維製品の製造並びに販売を営む会社であり、被告人保科善孝(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として、その業務全般を統括掌理しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空材料費を計上するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上

第一  昭和六一年二月一日から昭和六二年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億七〇九八万七五六一円で、これに対する法人税額が七一八〇万一六〇〇円であったにもかかわらず、同年三月三一日、高松市天神前二番一〇号所在の高松税務署において、同税務署長に対し、その事業年度における所得金額が五五五六万四五一二円であって、これに対する法人税額が二一八二万三四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、前記正規の法人税額と申告税額との差額四九九七万八二〇〇円を免れた

第二  昭和六二年二月一日から昭和六三年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が一億四一三八万二九八五円で、これに対する法人税額が五七二五万三四〇〇円であったにもかかわらず、同年三月三〇日、前記税務署において、同税務署長に対し、その事業年度における所得金額が五九六一万一九三一円であって、これに対する法人税額が二二九〇万九六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、前記正規の法人税額と申告税額との差額三四三四万三八〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する平成二年五月一四日付け、同月一五日付け及び同年六月五日付け各供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書一〇通

一  保科式子(二通)及び保科桂子の検察官に対する各供述調書

一  保科式子(一〇通)、伊達照夫(四通)、林健司(三通)、伊藤裕充、多田政信(二通)、今村彰、今村成子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  高嶋美登、赤間克郎(二通)、日中幸則、武井昇、高向孝、渡辺英二作成の各証明書

一  保科式子(三通)、伊達照夫、溝渕昌志(二通)作成の各申述書

一  大西潤甫、中村忠勝、内山忠、長尾妙子(二通)、徳永孝明、金子照代、大山カツ子作成の取引内容照会に対する各回答書

一  国税査察官作成の査察官報告書(三通)

一  大蔵事務官作成の告発書(以下、書類の表題のみ掲記したものはすべて大蔵事務官作成のものである。)

一  主要材料費調査書

一  補助材料費調査書

一  期末棚卸額調査書

一  交際費調査書

一  広告宣伝費調査書

一  租税公課調査書

一  受取利息調査書

一  雑損失調査書

一  交際費の損金不算入額調査書

一  寄付金の損金不算入額調査書

一  その他所得調査書

一  機械装置調査書

一  被告人作成の被告会社定款写し

一  高松法務局登記官作成の被告会社登記簿謄本

一  押収してある法人税修正申告書(平成三年押第一五号の2)

判示第一の事実について

一  田中周一、兼澤博之(二通)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  近藤正和作成の申述書

一  大鋸徳子作成の確認書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  脱税額計算書(昭和六一年二月一日から同六二年一月三一日までのもの)

一  押収してある法人税確定申告書(六一・二・一~六二・一・三一)(同押号の1)

判示第二の事実について

一  期首棚卸額調査書

一  消耗品費調査書

一  脱税額計算書(昭和六二年二月一日から同六三年一月三一日までのもの)

一  押収してある法人税確定申告書(六二・二・一~六三・一・三一)(同押号の3)

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社に対しては法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑が科せられるべきところ、いずれも情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額以下で処断することとし、その金額の範囲内で被告会社を罰金二二〇〇万円に処し、被告人の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、各懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、なお、同被告人については諸般の情状にかんがみ同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑事情)

本件は、布団カバーなど繊維製品の製造・販売を主たる目的とする被告会社を支配統括する被告人が、会社の業務に関し、二事業年度にわたり、合計一億九七〇〇万円余の所得を秘匿し、合計八四三〇万円余の法人税を免れた事案であって、ほ脱額は巨額であり、そのほ脱率も通算六五パーセント強の高率にのぼっていることまた、その態様をみると、被告会社の主要材料、補助資材の仕入れに関し、仕入先と通謀し、架空の仕入れを計上して支払のため手形を振出し、相手方から取立てた現金の返還を受けて簿外現金としてたくわえ、また棚卸資産を一部除外処理するなど計画的であって悪質というほかない。

いうまでもなく、税は納税者が所得に応じて等しく負担すべき義務であるところ、所得を偽り不正に税を免れる行為は誠実な納税者を被害者とする反社会的な犯罪ということができ、このような行為は大多数の善良な納税者の納税意欲をはなはだしく阻害するものであって社会に及ぼす悪影響をも合わせ考えると被告人の刑事責任は軽視することができない。

しかしながら、本件の動機に関しては、被告人が、いわゆる円高差益よって発生した予想外の利益を会社の含み資産として簿外処理して設備投資にまわし会社の体質の強化に備えたものであって、専ら私利をはかったというのではないこと、被告人は、本件税務調査当初はともかく、その後の査察調査及び検察官の取調べ、更には本件公判審理を通じ一貫して犯行を自白し改悛の情を示していること、ほ脱の結果については、修正申告の上本税はもとより重加算税等の付帯税の全額を納付していること、被告会社は本件後公認会計士を招へいするなど経理面の改善に努めていること、被告人には昭和三七年に高松簡易裁判所において業務上過失傷害罪により罰金八〇〇〇円に処せられた以外には前科前歴はないこと贖罪のため財団法人法律扶助協会に対し、各金二五〇万円を寄附したことなど、被告会社及び被告人にとって有利に斟酌すべき事情をも考慮した上、主文のとおり量刑した次第である。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 田中観一郎)

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